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CSBA提言の台湾新軍事戦略に学べ

2014年で最も印象深いレポート!
通常戦で到底太刀打ちできない中国対策を考える

Protraction遅滞作戦重視で抑止力向上を
費用対効果から日本も真剣に採用を検討すべき

CSBA-Taiwan.jpg2014年12月21日、シンクタンクCSBAが「Hard ROC 2.0: Taiwan and Deterrence Through Protraction」とのレポートを発表し、中国軍との圧倒的戦力差に直面する台湾軍に対し、従来の戦闘機や潜水艦や大規模陸軍を重視した国防投資を根本的に改め、対艦ミサイル、ミニ潜水艦、機雷、移動式防空ミサイル、隠蔽掩蔽などの消極防空、サイバー、電子戦、ISR妨害、心理戦等を重視した軍事戦略にを追求すべきと提言しています

なお「Hard ROC 2.0」(台湾:ROC:Republic of China)とのタイトルは、現台湾が採用している「Hard ROC」との国防戦略が不十分であることから、その改訂版「2.0」を提言するとの意味がこめられたものです

このような提言こそ、しがらみと惰性に流されやすい軍人が口に出せない、つまり国防関係者からの提言を期待できない、軍事情勢の変化を素直に受け止めた提言です。
ありがちな総花的国防費増額論や、F-35導入に代表される惰性的で無責任な現有装備近代化の追求路線ではなく、国家資源の現状を冷徹に見据えて取捨選択を図り、実行可能性を突き詰めて選択肢を提示すべきとの使命感あふれた提言でもあります

本レポートを執筆したCSBA研究者たちは、本提言を南シナ海を取り巻くベトナム、フィリピン、インドネシア等にも導入すべきと提言しており、夢に基づくぼんやりとした国防議論ではなく、地に足の着いた軍事戦略で政治家や国民の意志を固めよとも訴えています

南シナ海沿岸のパートナー国のみに言及して日本に触れていないのは、米国の同盟国として軍事力増強への期待が高いからでしょうが、中国軍が現ペースで軍事投資を継続すれば、日本が台湾と同じ状況に置かれることは時間の問題です。既に台湾化しているとも言えましょうが・・・。

rehman-CSBA.jpg日本への適応は「非現実的だ」と思う方も多いでしょうが、冷静に中国軍事力とその狙いを見据えれば、防衛白書の描く「戦い方」や防衛力整備の方が「非現実的」かつ「無駄」で、非対称戦(ゲリラ戦思想とも)を強く意識した軍事戦略がより有効なことが徐々にご理解いただけるでしょう。他に選択肢が無い・・とも言えます

本レポートは若手のIskander Rehman研究員が筆頭執筆者になっていますが、エアシーバトルや軍の革新を提言し続けるCSBAの中核研究者であるJim Thomas副理事長がNo2の位置を占め、CSBAが力をこめて送り出したものと確信してます

クリスマス直前に発表した狙いは様々に推測されますが、新年にあたり、是非落ち着いてご覧いただきたく、ご紹介いたします。


まず本レポートの情勢認識
●台湾と中国の国防投資は、年間予算で1:14モノ開きがあり、更に過去20年間に積み上げられた両国の圧倒的な戦力差を考えると、台湾が今後国防費を増加しても通常戦で中国に勝利する希望は持てない
●台湾の指導者も上記を意識し、「Hard ROC」国防戦略で「非対称軍事戦略」を強調する方向を一応は打ち出している。しかし実体は伴っておらず、台湾軍の近代化は依然として新型戦闘機や海軍艦艇、大型潜水艦や重装備陸軍への投資に向かっている

●台湾軍の軍事戦略は、武力により台湾問題を解決しようとする中国の意図を挫くため、台湾への武力行使が中国にとって耐え難い国家資源の損耗につながることを理解させるために寄与すべきである。
●しかし台湾の現国防投資は、この観点から極めて不十分である。中国軍が奇襲的先制攻撃で短期の局地的な高列度紛争に圧倒的勝利を収めようとしているのに対し、台湾は「時間稼ぎ」と「戦いの長期化」こそが軍事戦略の中核だと認識すべきである

(まんぐーす注:大人の事情からか言及は無いが、台湾が投資している戦闘機や艦艇や潜水艦が、中国の大規模初動攻撃に極めて脆弱であり、短時間のうちに戦力として存在しなくなる可能性が高いことが基本認識の根本にあります)

「Hard ROC 2.0」提言の方向性
●「Hard ROC 2.0」提言では、台湾の抑止力を強化し、抑止が崩壊した場合にも台湾国土防衛に資することを目的として戦略を提言する
●中国軍がまず獲得を目指す海空領域の支配を阻止するため、これを遅らせて戦いを長引かせることが目指すべき台湾軍の主要な役割となる

●台湾軍は海空領域で決して完全な中国軍阻止を目指す必要はない。求められるレベルは高くは無い。継続的に中国軍に対する脅威が存在することを示し、中国軍の行動に制約を与え続けるのだ
●台湾軍が中国軍の一定規模部隊を撃破する能力を保ち続けると相手に意識させることができれば、中国軍が武力行使の誘惑に駆られる確率を低下させることが出来る。

●このため台湾は、「海洋拒否戦略」を採用し、北ベトナムが米軍に行ったような「非通常型の防空作戦」でこれを補完して時間を稼ぐべきである。また上記戦略は、「見えない戦い」とも言えるサイバー戦、戦士妨害戦、情報&対情報戦、心理戦等で強力にサポートされるべきである
●仮に抑止が崩壊し、中国軍の上陸を許した場合でも、「重層的な国土防衛」を展開して中国軍に多くの損耗と時間を強い、継戦意志を挫くべきである。またこのような戦略を明確にし、政治的な意志や国民の防衛意識を強固に根付かせることにつなげるべき


ゲリラ的「海洋拒否」とは・・・
●「Hard ROC 2.0」の最初の重要要素はゲリラ的「海洋拒否」である。しかしここで台湾は完全な海洋支配を追及する必要はない。海洋支配や海洋阻止、又は台湾に侵攻する中国海洋戦力の主要な一部を攻撃できることが明確な戦力を「維持」することが重要である
●この目的達成のため、台湾軍はミニ潜水艦(midget submarine)、地上配備沿岸防衛ミサイル、攻撃的機雷を重視すべきである

●現在台湾は米国に8隻の通常型潜水艦(千から2千トン)を要望しているが、この代替として北朝鮮やイランが保有する42隻のミニ潜水艦(120t程度)を保有してはどうか
●この規模のミニ潜水艦は8隻の通常潜水艦を運用すると同規模の人員で運用でき、台湾国産で製造可能であり、経費も通常潜水艦8隻以下である。
●ミニ潜水艦は敵の攻撃や情報収集にも有効だが、かなりの中国軍海洋戦力をミニ潜水艦対処に拘束する役割も大きい。

●ミニ潜水艦が入手する敵情報は、沿岸配備の対艦巡航ミサイル部隊で活用できる。中国軍の着上陸艦艇32隻と60隻の護衛艦艇群を想定すれば、1200発の対艦巡航ミサイル(ASCM)で対応可能だ
●ASCMは、トラックに4発づつ格納したコンテナで搭載することで、相手からの発見と攻撃を困難にして中国軍に大きな負担となる。

●ゲリラ的「海洋拒否」の3つ目の柱は、攻撃的配備の機雷である。雑音の多い台湾海峡や中国海軍の主要港湾施設の近海に事前配備した無人水中艇や高度な機雷は、中国海軍の活動を大きく制約する。また中国戦力に対処のための戦力配分を強要し、中国海軍の海洋封鎖作戦や侵攻作戦を遅滞できる
●(強調したいのは、)ミに潜水艦42隻、1200発のASCM、更に相当数の機雷を調達して運用しても、現在台湾が追求中である8隻の通常型潜水艦予算よりも明らかに安価である点である。そして「海洋拒否能力」は、8隻の潜水艦より高まると想定できることである


台湾による「非通常型の防空」
●「Hard ROC 2.0」の2番目の要素は、ゲリラ的な「非通常型の防空」である。これには、移動可能な重層的な防空網と、偽装、隠ぺい、ぎまん等の組み合わせが含まれる。これらは中国軍に時間と浪費を強要する消耗戦を強いる
●また中国軍によるISR活動と戦果確認(BDA)を非常に困難にし、更に余分な戦力を無駄に投入させることが出来る。

●中国軍は作戦当初に海空での行動の自由を確保するため、台湾の防空網を制圧しに掛かるだろう。従って、台湾の防空組織が長く効果を維持できれば出来るほど、中国軍は台湾の巡航ミサイル軍等の制圧に時間を要することになる

●台湾軍は、空軍の戦闘機を更新するために多額を投入するよりも、高度に分散した抗たん性・耐久性のある地上防空ミサイル網構築に力を入れるべきである
●この際、台湾軍防空網は侵攻する全ての中国軍機を阻止する必要はない。可能な限り長く防空任務を継続することを念頭に、中国空軍に消耗とその脅威を与え続けることが求められる

●台湾は米国にF-16C/D型を66機を約7000億円で要望しているが、中国への配慮もあり、米国は145機の現有F-16A/B型への能力向上を4000億円で提案し、必要なエンジン換装を1000億円で議論している。
●この差額を上記の移動式防空網に投資できれば、更にゲリラ的「海洋拒否」で浮いた数千億円を再投資すれば、1800発の防空ミサイル(20発搭載可能な50台の移動発射機を含め)を購入可能である(シースパロー級を想定)。

●再度述べるが、ここで提言する台湾ミサイル防空網は、緒戦での最大戦力発揮ではなく、サバイバル:長期継続運用を重視する。これはベトナム戦争時の経験から導いた提言である
●北ベトナム軍は、米軍の飛行89回に1発の割合でしか地対空ミサイルを発射しなかったが、これにより米軍は爆撃機の援護に倍の援護機をエスコートさせることを強いられた。防空網がサバイバルすることで、中国軍機に多くのコストと労力を強いることが出来るはずである

CCD(偽装、隠ぺい、ぎまん等)で効果増幅
●台湾ミサイル防空網は、多数の偽目標を設置することで中国軍に更に負担を強いることができる。これには光学及び赤外線センサーを欺くデコイ、高度な通信電子機器妨害装置やデコイ等が含まれる
●被害を受けた台湾の飛行場や滑走路を、修復したかのように見せかける装備はとりわけ効果的であろう。航空基地や滑走路は優先度の高い目標であり、中国側に再攻撃を強いることが出来る


「重層的な国土防衛」への転換●強襲侵入や着上陸作戦の経験の無い人民解放軍にとって、防御された沿岸部やその地形は大きな脅威である。沿岸部や地上の地雷が加わればなおさらである
●トラックに搭載した野戦砲や多連想ロケットを沿岸部に配備し、機動運用すれば中国軍にとって大きな脅威である

●着上陸を許した場合、台湾軍は持久戦に持ち込み、敵の侵攻を遅滞させ、交通網を混乱させ、敵に出血を強いる
●このためには、高度に分散されつつも組織化された小規模地上部隊が、通信が途絶しても自立的な作戦遂行を継続し、不正規戦を貫く必要がある

●武器や弾薬等を小分けにして各所に事前保管し、地域の防衛組織を形成してゲリラ的な戦いを継続する基礎を作っておく
●台湾陸軍内に市街戦や山岳戦に特化した予備役を保持し、レジスタンス活動に当たらせ、同時に国民の士気維持のための活動もさせる

●上記戦略には陸軍の作戦コンセプトの転換が必要。高劣度の通常戦重視から、都市部での非対称近接戦に比重を移したコンセプトへの転換が求められる。
●究極的な目標は、中国側に台湾の占領が多大な犠牲と時間が掛かる企てであることを認知させ、国際社会の介入の時間を稼ぎ、中国に方針転換を強いることにある


「見えない戦い」による戦闘能力増強
●過去数年間、中国軍の指揮統制、通信、ISR、戦果確認能力等を攻撃して破壊することの是非について、米国内で議論が重ねられている

●なぜなら上記の効果を得るためには、中国本土に対する米軍による直接攻撃が必要になるが、そのような攻撃は事態のエスカレーションを招き、最終的に核戦争に発展する可能性があるとの懸念が根強いからだ
●しかし、台湾の場合にはその懸念は必要ないだろう。台湾の場合、中国との軍事紛争はすぐさま国の存在を脅かす事態に直面するのだから、中国軍の指揮統制システムやISR網への攻撃に躊躇は不要だろう

●中国軍の戦場ネットワークを混乱させることは、中国軍の作戦遂行を困難にさせ、実戦経験の無い彼らの自信を挫くだろう
●台湾軍が中国軍のネットワークを麻痺させ、攻撃的サイバー攻撃を行えれば、潜在的な抑止力を高め、更なるコストを中国軍に課すことが出来るだろう

「Hard ROC 2.0」を概観して
●現に存在する台湾国防予算計画額を基礎に、予算面で実現可能性のあるオプションを提示した。提言した軍事戦略を良く融合して実施すれば、中国に対し軍事行動が高い代償を伴うことを認識させ、結果的に抑止力を強化できる
●本提言では台湾が自国で製造できる装備を活用することで、米国への武器依存から脱却できる方向を示した。また、防衛的な装備が大部分で、米国の支援も得やすく、中国からの反発を招くレベルも低いだろう

●本提言は地域の他国にも適応可能だろう。南シナ海を取り巻くベトナム、フィリピン、インドネシア等である。この戦略を共有することにより、台湾とこれら諸国の関係を強化して連携した対応が可能になるかもしれない
●しかし何よりも重要なのは、根本的に新たな国防戦略の採用を決心することにより、ワシントンと台湾国民に対し、台湾が自国の防衛に強く引き続き関与しているとのシグナルを発信することである
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先に触れたように、レポートのサマリーを読む限り、台湾が投資している戦闘機や艦艇や潜水艦が、中国の大規模初動攻撃に極めて脆弱であり、短時間のうちに戦力として存在しなくなる可能性が高いことに言及はありません
大変重要な大前提だと思うのですが、CSBAにもこの点を強調できない「大人の事情」があるのでしょう。強調しなくても自明の事実でしょうが・・・

ベトナム戦争での米軍の対応と中国軍の対応を同様に見積もるのは、情報分析の世界で戒められる「ミラーイメージ」の過ちの可能性もあります。
またSAMの出し惜しみに関し、台湾の重要インフラ(発電、通信、ダム、交通)がどれだけ耐えられるか、には疑問も残ります

また、実際に小さな台湾が、国土を戦場として戦い続けられるか、必要な物資補給が得られるか、国際的な支援がどこまで期待できるか等々については、決して楽観できない論点かもしれません。

しかし何度も申し上げますが、本戦略提言の背景には、今の戦闘機や潜水艦の近代化では十分な抑止力にはならないとの「止むにやまれぬ」思いがあります。完全ではないけれど、今の方向性では米国や台湾国民の信頼が得られないし、台湾のやる気が疑われますよ・・・との警告でもあります

それが最後の「ワシントンと台湾国民に対し、台湾が自国の防衛に強く引き続き関与しているとのシグナルを発信すること」との締めに表現されています
これは間違いなく、遠くない将来、日本にも向けられる問いだと思います
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更に申し上げれば・・・
日本対しても、既に同様の提言が!!!

2014年9月、中国軍の権威である米海軍大学のヨシハラ教授は、CNASから日本への軍事施策提言レポートを発表し、日本に非対称戦でA2ADを目指せ、現在の国防政策や装備品整備の方向は不適切だと警告しています
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18

その結論は端的に言うと
●日本は、中国の攻勢能力に専守防衛では対処できない
●称賛に値する(自衛隊の)戦術的職人技は、不釣り合いに高価で、発揮困難
対称戦は、敵に対して財政的・技術的優位を持つ大国のやり方。日本にそんな余裕はない

つまり、日本もA2AD戦略を採用し、中国軍の初動を邪魔して米軍の増援部隊が戦域に到着するまでの時間を稼ぎ、中国にA2AD遂行のコストを負わせよ、との提言しているわけです。

更に海上自衛隊については
Yoshihara22.jpg●中国の作戦計画者は、作戦当初に、嘉手納、岩国、佐世保、横須賀等の基地にミサイル攻撃を仕掛ける。つまり、日本の現在の防衛態勢は、中国が日本にだけ多大なコストを課すことを許容している。
●例えば海自の対潜能力ASWは世界第二の固定翼ASW戦力を持つが、中国のミサイル攻撃に脆弱だ。ASWの例は、海自が劣勢な分野のひとつに過ぎない
●海自は「ひゅうが」や「いずも」といったヘリ空母へ投資しているが、中国のミサイル攻撃の格好の標的となる。

そこで「日本による接近阻止戦略」を提案
●潜水艦戦 ●機雷戦 ●小規模艦艇による防衛 
●沿岸配備の各種ミサイル ●抗たん性強化 ●分散と代替施設確保
の分野でそれぞれ提言を行っています

関連する主張は他からも
「森本元防衛大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05
「CSBA:陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「脅威の本質を見極めよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08

オリジナルは「東京の郊外より」です!
CSBAが台湾に新軍事戦略を提案 日本も学べ
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2
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